L
O
A
D
I
N
G

パティシエ小松真次郎の職人道 日本オリジナルのダックワーズを台湾に

 

初めて「パティスリー・イズム」のシェフである小松真次郎さんと会ったのは、小松さんが最初に台湾に来て、「シェフワークス台湾」のショウルームに訪ねた時だ。自分のこだわりをはっきりと伝え、真剣に制服を選ぶ姿が印象に残っている。開店7ヶ月後のこの日、天母の小道沿いにあるパティスリーに訪ね、小松さんと再会し、台湾で半年だけで2万個を売り、噂の「ダックワーズ」をようやく味わえた。

 

職人の一本道:「やめようと思ったことは一回もない。」

 

小松さんは、実家が長崎カステラ屋さんを経営していたため、幼い頃からお菓子に興味を持っていた。高校は進学高に通っていたが、家業を継ぎたいと、迷わず製菓専門学校に入った。

 

入学して三ヶ月後、学校のプログラムの一環として、「フランス菓子16区」という名店での現場実習の機会を得た。10日間の実習終了後も16区で修業を続けたいと思った。実習の最終日に、社長に「アルバイトをさせてください」と頼み、そのまま学校を通いながら、アルバイトしはじめた。その後、実家の都合もあり、家業は継がないことになった。卒業後は16区で就職し、一筋にパティシエを目指して努力してきた。

 

当時19歳の小松さんにとって、最初に仕事の現場についた時、驚かされることばかりだった。毎日朝6時半から夜12時までの長時間労働にも関わらず、現場のパティシエ達の活気、仕事をするスピードの速さ、作らなければいけないお菓子の量など、たくさんの衝撃を受けた。

 

現場の仕事というのは、厳しくないかと聞かれると、「そう思う人と、そう思わない人の違いじゃないか」と答えた。「(現場の仕事や上の人の教えなど)それを厳しいと取るか、当たり前と取るか、自分次第だと思う。」

 

「最初はミスで怒られたり、きついと思ったりする事もよくあった」と正直に話す小松さん。だが、いつも先輩たちに励まされ「毎日一生懸命長い時間働いていたら、絶対自分に技術もついてくる」と前向きに考え、「何回もやめたいと思ったけど、やめようと思ったことは一度もない」 と話した。

 

新鮮さへのこだわり:「一番おいしい状態で食べてもらいたい。」

 

16年半にわたって16区で働き、台湾に来ても、「とにかく新鮮なものを客さんに出す」という16区の理念を実践している。「人件費とか、コストとか、ビジネスの面から考えると確かにきついと思うが、できる限りやっていきたい」と小松さんは意気込んでいた。

 

パティスリー・イズム」で、ロールケーキなどの商品はその日に作るものがその日にしか売らない。そして、よく焼け菓子に入っている保存料を一切使用しない。「(保存料を)入れると日持ちしますが、そうすると味は確実に落ちます。」

 

それだけではない。「売ってしまったら終わりという考え方は嫌いです。やはり、一番おいしい状態で食べてもらいたい」と客が持ち帰るときも商品の状態を気遣っている。

 

例えば、ダックワーズの場合、中でキャラメルのバタークリームが挟まっている。もし暑い車の中に長時間放置すると、中のバタークリームが溶け、全て生地に染み込んでしまう。また、ダックワーズを冷蔵庫に入れると、逆にバタークリームが固まってしまう。そのため、小松さんは、客にダックワーズを渡す時に、「涼しい常温に保存してください」と忘れずに伝えようにスタッフに徹底させている。

 

「パティスリー・イズム」の人気商品: 日本オリジナルのダックワーズと純生クリームを使用したロールケーキ。

 

 

パティシエのやり甲斐:「こんなに人に笑顔させる仕事は中々ないと思う。」

 

毎日新鮮なお菓子を客に提供するのは、当然簡単なことではない。20年にも及ぶキャリアの中で、小松さんに支えたのは、やはり「客の笑顔」だ。

 

「お菓子を怒りながら食べる人っていないでしょ。お菓子屋さんに来てゆっくりとティータイムを楽しむとか、自分に家までご褒美を買ってあげたりとか、みんな絶対笑顔でお菓子を食べる。そういう仕事はあんまりないと思う。」

 

「笑顔で美味しいと言ってもらうためにやっている」と、心から客に美味しいものを提供したい。この思いも輸入した高価な「純生クリーム」を使用することに反映された。純生クリームは日本ではどこでも買うことができるが、台湾現地では生産されていない。そのため、賞味期限の長く、安価な植物性クリームが一般的に使われている。しかし、小松さんはショートケーキとロールケーキを台湾の客に提供したいと考え、日本オーム乳業の純生クリームを使うことにした。乳風味の深い乳脂肪分が多いので、独特な香りがあり、その濃厚なミルク感は、たくさんの客に歓迎されている。

 

賞味期限が短く、一般の生クリームより値段が三倍高いため、量も限られている。だが、その美味しさへのこだわりは、小松さんのパティシエのやりがいに繫がっているだろう。

 

新しい発想の源:「日常の中で色んな『引き出し』を積み重ねる。」

 

店の人気が順調に上がっているが、常に新しい商品を考案していく必要もある。「何もない所から、いきなり(発想が)生まれるというのはあるかもしれないけど、滅多にあることじゃないから」と小松さん。新しいアイディアを出すために、普段から工夫する必要があると考えている。

 

日本でも台湾でも、色んなお菓子屋さんを食べに行ったり、フランスや日本からの有名なチェフによる講習会に参加したりすることで、「こういう組み合わせもあるんだ」と、徐々に頭のなかで「引き出し」を増やしている。何か新しいものを作ろうとする時に、違う「引き出し」にあるものをそれぞれ組み合わせる。それが面白い発想につながる。

 

日常のなかの観察も大事だという。身近な素材を活かすために、「ただ食べるじゃなくて、味を分析して、考えながら食べることはすごく大事です。例えば、このフルーツを食べたらおいしいなと、何か作ろうかなと思った時に、そこにこれを合わせたら面白いじゃないかといつも考えています。」

 

取材前日に出したばかりの新しい商品「アメリカチェリータルト」は、最近台湾でよくアメリカチェリーを見かけていたため、それをテーマにして何かを作ろうと考案したもの。赤黒く甘酸っぱいアメリカチェリーが、薄い緑でナッツ風味たっぷりのピスタチオのクリームと組み合わせて、色も味も面白い新品が出来上がった。

 

「味覚だけじゃなく、視覚の刺激も大事」と小松さんは話す。数年前に花屋に行って、「この花は綺麗だなと、今度チョコレートでこの形にしよう」と、それがコンクールに参加した作品のチョコレート細工のインスピレーションになった。その後、本屋さんで生花の本の読んだりするなど、お菓子とは一見関係のないところで自分の発想力を培ってきた。

 

ダックワーズの品質を保つために、粉糖の振り方まで多くの経験を積むことが必要だという。 (Photo Source:パティスリー・イズム)

 

師匠の誇りを台湾へ:「日本オリジナルのダックワーズを世界へ広げたい。」

 

お菓子の職人として台湾にきてこの先何を期待しているかと聞かれると、小松さんは「台湾に来た一番の理由は、ダックワーズというお菓子を台湾で広めたいです」と話した。

 

ダックワーズは16区のオーナーシェフである三嶋隆夫が考案し創られたお菓子。今や日本国内に限らず、お菓子本場のフランスまで人気が高まった。オリジナルのダックワーズを完全に台湾で再現するために、小松さんは三嶋さんの同意の元に、初めて海外でオリジナルの型を使い、日本と同じダックワーズそのものを売り始めた。

 

台湾で開店して7ヶ月が経ち、品質を保つために今でも自分でダックワーズを作っている。「ずっとやらないと、生地の一番いい状態が把握できない。」小松さん自身が修業の間に、一日最高八千袋のダックワーズを作ったこともあったという。

 

「生地はメレンゲなので、どんどん空気が抜けいく。だから、作るスピードが大事」と説明した。メレンゲを型に入れ、次のポイントは粉糖の振り方。まず一回振ると、粉糖が生地に溶けて膜となる。そしてもう一度粉糖を振り、焼きあがった後のプツプツした表面を作り出す。最後の仕上げとして、溶けずに残ったりする粉糖を全部ハケで払い、そして、周りに飴となる部分をきれいに削る。手作業で、一つ三秒くらいかかる。「そうしないと、飴は時間が経つと溶けて、グジュグジュになり、食感が悪くなってしまう」と職人のこだわりを語った。

 

 

取材の最後、ショーケースの中で並んでいる美しいケーキを紹介し、「シンプル・イズ・ザ・ベスト」と小松さんがまとめた。今や派手なお菓子が流行りになり、鮮やかな飾りで客にアピールする店がよく見られるが、「僕はやっぱりクラシックな味が好きな」と 、小松さんは躊躇せずに言った。

 

シェフの制服へのこだわり

「お菓子や料理などを作る仕事というのは、人の口に入るものだから、清潔感はやっぱり大事にしたいです。個人的には、まず白い服だけを選びます。そして、スタイルとしてもオーソドックスなタイプが好きです。帽子も伝統的なコック帽子をこだわっていますが、職人はこういうじゃないと!」